2016年12月報告
12月は、自分の研究を進めることにほぼ専念した。先月の報告書に記したように、12月の上旬にキャナダイン教授に論文のサマリーを提出する必要があったため、それまでは先行研究の渉猟、入手しうる1次史料の読解によって、執筆中の論文の何が新しいのか、本当に新しいと言えるだけの論拠を提示できるのか、を精査していった。その結果、論文の前半部分、1773年段階までの議論はある程度説得的に提示できることを確認できた。問題はその後であり、ブリテン本国と東インド会社とがどのように関係し、特に後者から前者への影響があったかについての議論を丁寧に1780年代に至るまで展開しなくてはいけないと気付かされた。今のところは両者の議論はばらばらに展開されているようにみえ、勿論連関がないわけはないのだが、強い史料的根拠に支えられていないため論証ができていない問題がある。これについては、重要な政治的人物の書簡などを特に精査する必要があると考えており、これは1月の史料収集の課題となる。ここの議論が切り開ければ、執筆中の論文自体の質が大いに向上するため、とても重要となる。尤も草稿史料の量は膨大にあるため、全てを精読する時間はない様にも考えられ、どのように絞ってマネージブルにしていくべきなのか思案中である(たとえば時期を当初の計画より一層限定するというのはその一案である)。
12月半ばには秋セメスターが終了し、セメスターが終わると同時に学生も教員も一斉に休暇や帰省モードになるため、プリンストンは人もまばらになる。この時期は図書館やカフェテリア、U-ストアなどの大学諸施設が容赦なく閉まるか開店時間の短縮をするため、キャンパスにいてもやることがなくなる(授業が休みの時は、大学関連の施設が見事にしまるのはアメリカの大学の特徴なのだろうか。大都市にある大学ならばそこまで困難はないのかもしれないが、大学街プリンストンでは、街の一角が機能停止すると言っても過言ではないほど、生活が困難になる)。それを回避すべく、セメスター終了に合わせて、学期終了後にワシントンDCの議会図書館に、幾つか史料を収集しに出かけた。ジョージ・ジョンストン、トマス・パウナルの史料はその一例である。これらの人物はブリテン帝国の枠組みのなかでアメリカ(ジョンストンは西フロリダ、パウナルはマサチューセッツ)と関係をもち、しかるのち本国に帰国して政治的に活躍した人物たちである。従って、彼らについて探究することが、帝国史という視角から検討することに寄与するのである。そのような問題意識から収集した史料を読解し、ブリテン統治に関する新たな知見を得た。
1月には大英図書館での史料収集を予定しているため、12月の下旬には同時にこの準備も進めた。どのような史料が何処にあるか、刊行されているか、デジタル化されているかを逐一確認する作業は意外と時間を食うものである。特に近年はオンラインデータベースも加速的に多様化かつ充実してきているため、一昔前の論文ではアクセスできなかった史料がオンライン化されていたりすることもよくあるため、厄介である。
プリンストンは秋の紅葉が最も美しいと言われる(個人的には5月の新緑も捨てがたいと感じるものの)が、その美しさは一瞬ですぎ、厳しい冬がやってきた。特に派遣者はキャンパスから自転車で15分ほどの距離に住んでいるため、雪の降る日には通学が困難になる日もある。アメリカは車社会であるため、特に冬場には車を所持していないことからくる困難を経験することもあるが、キャンパスに離れていることからくる利点もある(ショッピングセンターが徒歩圏内であることなど)。ただ、派遣者は基本的に長い冬の時間をキャンパスで過ごす、ということは予め考慮しておくべきだろう。